法律的に見ると、たとえ別居中であっても、夫婦にはお互いに助け合う扶養義務があるため、生活費は分担しなくてはなりません。離婚するまでの期間においては、婚姻費用をそれぞれに負担しなくてはならないのです。
婚姻費用とは夫婦として暮らしていくのにかかる費用のことで、基本的な生活費に加えて子供の養育費をはじめとした様々なお金も含めたものです。別居しているからと言って、この義務が消えてなくなるわけではありません。
そのため、別居していても生活費を渡さないのは原則として認められません。収入や子供を連れているかどうかといった事情によっても金額の相場は変わってくるものの、暮らしていける最低限の金額は渡さなくてはならないと考えなくてはならないのです。
ただし、これはあくまでも原則なので、時には生活費を渡さなくてもよいケースもあります。そうした場合について見ていきましょう。
生活費の支払いが不要な場合
本来、夫婦は助け合って暮らしていく義務がある中で、相手方が一方的にその関係を破棄している場合には、生活費を請求できないと考えられています。たとえば、法的に正当と認められる理由もないのに、話し合いや説明もなく別居を始め、同居を求められても無視するような場合です。
また、自らの不貞行為によって別居の原因を作り、妻がそのまま家を出ているような有責配偶者からの生活費の請求についても認められない場合があります。ただし、この場合であっても、生きていくために最低限必要な金額や、責任の程度による減額をした金額については認めるケースもあります。
本来であれば、夫婦には同居義務があるため、やむをえない理由がなければ一緒に住まなければなりません。相互扶助義務や婚姻費用の分担も、こうした前提の元に考慮されているので、一方の落ち度によって別居している場合には、そちら側からの生活費の請求は難しくなるのです。
なお、こうした場合であっても、子供を連れている場合には、子供の監護費用については認めるケースがあります。ただし、結局は相手方にお金が渡った段階で、それが子供のために使われているかどうかを確認するのは困難になってしまいます。
生活費の支払い方法
できれば別居の前、無理なら別々に暮らし始めてからできるだけ早くに取り決めておきたいのが、どのようにして生活費を受け渡すかという問題です。単純に銀行振り込みにする方法もあるものの、その他の選択肢にするメリットもあります。
たとえば、離婚に向けての話し合いをするためにも、毎月会って手渡しにする方法があります。生活費を口実にして、話し合いのきっかけを作る工夫です。
また、子供を妻が連れて出て行った場合には、子供と会った後、妻に別居中の生活費を渡すという約束をしておくことで、子供に会えなくなるリスクを低減する手もあります。こうしておけば、妻が子供を夫に会わせたくないと思っても、お金の問題が絡んでくるようになります。
妻から見た別居中の生活費
専業主婦であれば、自分は収入がないため、夫から生活費をもらえないと経済的に厳しくなります。夫名義の銀行口座からお金を引き出すにしても、夫の同意がないと、離婚の際に慰謝料や養育費、財産分与の前払いとして取り扱われるケースもあります。
自分が家を出る場合には、今後の生活費についてはお互いに協議しておかないと、その後の暮らしの維持が困難になる可能性があります。子供を連れて行くのであれば、経済的な困窮が子供にまで及ぶ危険性があるのです。
夫に不貞行為があるケースなど、夫の落ち度で家を出る場合には正当な理由による別居として認められる可能性が高いものの、自ら理由を作ってしまった場合には、個人的な話し合いだけではなく、法的にも生活費の受け取りが難しくなるリスクについて考えておかなくてはなりません。
また、夫が素直に生活費の支払いに応じなかったり、別居が長引くにつれて情がなくなり、支払いが滞る危険性についても考慮しておかないと、暮らしに支障をきたす危険性があります。夫に払う意思があっても、リストラや会社の倒産など、経済的な事情で不可能になる可能性も視野に入れておいたほうがよいでしょう。
夫から見た別居中の生活費
多くの場合、男性は生活費を支払う側になるため、正当な金額を渡さなくてはなりません。しかし、妻の不貞行為が原因になっているような場合には、納得できないこともあるでしょう。こうした有責配偶者からの申し立ての場合には、支払いを拒否したり、減額される可能性があります。
相手方に責任がない場合には、別居していても生活費は支払わなくてはなりません。これは法律上の義務なので、相手から調停や審判に持ち込まれる可能性もあります。